【徹底考察】映画『ファーストキス 1ST KISS』:変えられない未来と、変えられる「今」

はじめに

先日の記念日、彼女と映画『ファーストキス 1ST KISS』を公開翌週に観に行きました。
前列には制服姿の高校生カップルが座っていて、エンドロールが終わるころ、男の子が涙ぐみながら「大切にするからね」とつぶやき、女の子はマスクを濡らしていました。
僕もその光景に胸を打たれました。

キャッチコピーの期待と裏切り

ポスターに大きく書かれた「大丈夫、未来は変えられる。」という言葉は、観客にとって強い希望のシンボルです。
しかし実際には、ヒロインのカンナが何度タイムリープしても、夫の駈が駅のホームで命を落とす運命は一切動きませんでした。
変わらない未来に直面したとき、人は無力感に襲われますが、本作はそこで終わらず、「では何を変えられるのか」という問いを私たちに投げかけてきます。

ブロック宇宙論と“過程”の価値

物理学のブロック宇宙論では、過去・現在・未来は一本のタイムラインに固定されているとされます。
本作のタイムリープもまさにその発想で、結果は変わらなくても、そこへ至るプロセスは無数に書き換えられる余地があります。
カンナは駈の死を阻止できないと悟ったあと、彼との時間を磨き上げることに舵を切ります。その姿は、変えられない結末を前にしても“今”を愛おしむ人間のたくましさを映しているようでした。

ふたりの距離が示す小さな奇跡

最初の時間軸では玄関に放り出されていた駈のスリッパが、やり直し後にはきちんとそろえられています。
柿の種のピーナッツだけをつまんでいた駈が、いつのまにかカンナの好みに合わせて米菓部分を頬張るようになります。
靴下をたたむ手つきや食べかけのお菓子の渡し方といったささやかなディテールが、ふたりの関係の改善を静かに物語っていました。
結末は同じでも、そこへ向かう歩幅や手の温度が変われば、その死は“喪失”ではなく“慈しみ”に姿を変えることを、私はスクリーンを通して学びました。

離婚届が提出されなかった理由

駈が離婚届を提出しなかった理由は劇中で明かされません。
ただ、恐竜研究に没頭する彼にとって、夫婦の倦怠は悠久の時間の流れではほんの小石にすぎず、「まだやり直せる」と楽観していたのかもしれません。あるいは、冷え切った関係の奥底に小さな未練が残っていて、最後までペンを走らせる決断ができなかったのかもしれません。
その曖昧さが、駈という人物の人間くささを一層際立たせていたように感じます。

映画館を出たあとで

ロビーを歩きながら、私は高校生カップルの背中を目で追っていました。
彼らは泣き笑いの混ざった顔で手を握り合い、ぎこちなくも確かな足取りで出口へ向かっていました。
私自身も彼女の指先を握り返しながら、「未来は変えられないかもしれない。
でも、今ここで交わす言葉と仕草で、同じ未来をまるで別の風景にできる」と実感しました。

おわりに

『ファーストキス 1ST KISS』は、タイムリープという大きな仕掛けを用いながら、「結果よりも過程をどう彩るか」という、ごく日常的なテーマを優しく伝えてくれる作品でした。
変えられないゴールの前で私たちに残されているのは、限られた時間を大切な人とどう使うかという選択だけです。
エンドロール後の静かな劇場で、私は「大切にするからね」と泣いていた高校生の言葉を、自分への宿題のように胸に刻みました。
いう言葉は、決して運命を覆せるという意味ではない。それは、「今をより良くすることで、未来に残るものが変わる」ということを示しているのだ。

この映画が伝えたかったのは、人生において最も大切なのは、「どう生きるか」だということ。変えられない運命を前にしても、駈とカンナが選んだ愛の形は、観る者の心に深く刻まれる。

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